緑の情報特版NO6

  違法を重ねる広域化と未来につなぐそのチェック

          2012914日    青木泰

1.宮城県のてんまつ

910日宮城県は、北九州市と8月31日に結んだ委託契約(注1)に基づき、仙台塩釜港から船積し、917日に北九州市は、違法に燃やす予定だ。

1)議会手続きを無視した宮城県の違法

もちろん宮城県、北九州市2つの地方自治体の首長間で決めたことだからと言って、何でもできるわけではない。この間、一部新聞やTVなどの情報として、がれき問題もかなり世間に知られその矛盾点は、明らかだ。

   宮城県では、がれきの発生量が大幅に減り、広域化の必要がなくなってきている

   九州などの遠方に運ぶことは、膨大な運送代がかかり、その分税金の無駄遣いだ。

 したがって首長の裁量権ひとつで、何でも進めることができるのではなく、当然にもなぜ今、広域化なのか、それも九州まで運ぶのかを説明することが求められる。また法律上のルールとしてもこのような契約案件については、議会承認を得ることが、必須の条件として定められている。

自治体の運営は、地方税や国税で賄われるために、その運営にあたっては、地方自治法で事細かく原則が決められ、かつ議会と言う直接の監視機構が設置されている。首長は住民の直接投票で選ばれるが、一方議員も直接投票で選ばれ、いわゆる2元代表制となっている。地方自治法による自治体の仕組みは、首長に行政上の大きな権限を与えながら、その行政権をチェックする議会にも大きな権限を保証し、この議会承認を得なければならないものとして、地方自治法96条に予算、決算、その他の重要な案件に加え、契約案件を定めている。

今回の宮城県による北九州市への委託契約は、議会の承認を得ないで、それに基づき勝手に実行する法制度上も許されない行政行為である。

 

2) 一度結んだ契約を無視=違法な2重契約

宮城県による今回の委託契約は、鹿島JVが管理する石巻市の雲雀野の2次仮置き場に保管されているがれきを2万3千トン、北九州市に運ぶという契約である。しかし宮城県は、石巻ブロックのがれきについては、すでに鹿島JVにがれきを委託していた。委託にあたっては、鹿島JVと契約を結んだ段階(201196日)では、「業務委託仮契約書」と「仮」を付け、議会承認を得て(2011916日)その契約は正式の「業務委託契約書」となった経過がある。委託していたがれきは、その管理権は、鹿島JVに移っている。しかも業務委託の内容は、焼却や破砕等の「中間処理」と再生利用や埋めて処分の「最終処分」となっていた。

今回の宮城県と北九州市の契約は、鹿島JVが、最後まで処理処分しなければならないがれきを、途中で中抜きして北九州に運ぶというものであり、宮城県は、鹿島JVとの契約変更を済ませた上でなければ、違法な2重契約となる。

ところが、宮城県では、県議会が始まったのは、9月11日からであり、県議会に諮ることなく、議会前日にがれきの運び出しを行ったのである。契約案件は、議会確認事項であり、一度結んだ契約を見直すことなく契約を結べば、その契約は無効である。(民法119条)と斉藤利幸弁護士が指摘する。議会のチェックを避けて事を進める宮城県村井知事の対応は、違法な独裁者の対応であり、到底許すことはできない。

あの中国ですら、地方自治体の役人や警察が、違法行為で逮捕され、処罰される時代になっている。日本では、地方議会もメディアもこれをチェックできないとすれば、私たちは、大変な社会を生きていることになる。

 

3)がれきの広域化の必要性はなくなったのになぜ北九州か?

宮城県による議会手続きを無視したがれきの北九州市への運び出しは、北九州市ひまわりプロジェクトや北九州市と宮城県の市民が連携するおひさまプロジェクトによる通知書を宮城県に9月10日提出し、違法性を指摘して行ったが運び出してしまった。(注2:宮城県と県議会への通告書)

問題は、議会手続きを欠いた違法性だけでなく、宮城県が11日からの議会に提出している鹿島JVとの契約書の変更提案の中身にある。鹿島JVとの契約書の変更内容は、委託しているがれきの処理量の半減化と、それに伴う契約金の20%削減である。削減量は、従来依頼していた685万トンから310万トンに375万トンも減らすというのである。(注3:河北新報まとめ)

一度業務委託した業者との契約の処理量を375万トンも減らす契約変更を提案しながら、なぜ2.3万トンを北九州に持って行くのか?宮城県が、鹿島JVに大幅な処理量の削減提案をした段階で、広域化処理は終わったと言える。

削減する量を、375万トンでなく、372.7万トンにすれば、北九州への運搬分2.3万トンは、処理できる。トン当たり2~3万円で、鹿島JVが当初計画通りに処理し、高い経費は必要なかった。削減分を8.6万トン減らせば、北九州に加え、東京都の市町村への処理委託分6.1万トンも運ぶ必要がない。

4) お礼は賄賂

がれきの広域化にあたって、環境省が絆キャンペーンによって、全国に発信したことは、がれきの処理が遅れ、全国でがれきの受け入れを進めなければ、復興が進まないということであった。北九州市でも、東京都でもそのように受け入れの説明会が行われた。

しかしがれきの当初の見積もりが過大に行われ、今回民間企業体への業務委託処理量も大幅に削減され、広域化処理が必要ないことが分かった。この段階において、なぜ北九州市や東京都にがれきを持って行く必要があるのか?

今回宮城県庁を訪れ、何人かの県議と会い、宮城県にも取材したが、宮城県が語る広域化の理由は、当初からがれきの広域化に協力姿勢を持ってもらったために送るのだという。お礼を兼ねて送るのだと言うのである。しかし公務員が行う職務になぜ“お礼”が必要なのか?行政や議員が行う行為は、公共的目的を持って行われる。お礼は必要ない。“お礼はわいろ”である。北九州市への運搬は、このように2重の意味で、議会チェックが必要だ。

がれきの処理に大きな余力が生まれ、半減する見直しが行われた時に、地元での処理を奪い、高い処理コストの広域化を選択する必要はない。(☆1)

当然この点は、宮城県議会でも、北九州市議会でも論議され、今回の契約が正しくチェックされると期待したい。

どこから考えても、理屈の通らないがれき広域化は、高いコストをかけることで、運送や処理を委託した業者を不当に儲けさせることになる。行政や政治家が、特定の業者にあっせんを計れば、その見返りを期待したものと、指弾される。なぜ一番遠く離れ、お金のかかる北九州にがれきを持って行くのか?

議会で公に説明できない裏の事情は何か?根拠のない噂だ言うのなら、うわさを跳ね除ける為に、広域化は封印してほしいものだ。

 

2.岩手県の広域化計画量のおかしさ

がれきの発生量の見直しは、今年の5月21日に発表された。それに伴って、「災害廃棄物の推計量の見直し及びこれを踏まえた広域処理の推進について」(以下「広域処理の推進について」)<注4>が、環境省から発表された。ところがわずか2ヶ月しか経過しない8月7日に再び「東日本大震災に係わる災害廃棄物の処理計画の工程表」(以下「工程表」)<注5>が発表された。そのたびに名称を変えているが、要するに環境省のがれきの広域化処理計画である。

宮城県では、「広域処理の推進について」では、16都府県に持ってゆくとなっていたのが、「工程表」では、東京都と北九州市に絞られたことは、先に「緑の情報特版NO4」<注6>で報告した。

岩手県についても「広域処理の推進について」では、広域化処理必要量は、120万トンとする一方で、受け入れ自治体ごとに振り分けた数値では、合計量は98万トンとなっていた。「工程表」では15,2万トンと1/6~1/8に大きく減っていた。(下表参照)


 (表1)

環境省・岩手発広域化(木屑・可燃物)

広域処理の推進について

工程表

 

201521)     (万トン)

      (20128、7)              (万トン)

受け入れ

   搬出

可・木くず

搬出

可燃

木くず

合計

青森

県北

11,65

野田村

0,31

0,11

0,42

秋田

県北&宮古

13,5

久慈市

0,3

 

 

 

 

 

野田村

1,18

 

 

 

 

 

宮古地区

0,4

 

1,88

群馬

山田、宮古他

8,3

宮古地区

2,78

 

2,78

埼玉

県、野田村

5,0

野田村

 

1,13

1,13

東京都

宮古

1,8

大槌町

0,27

 

0,27

新潟

   ―


 〃

 

0,63

0,63

富山

山田

5,0

 

1,08

 

1,08

石川

    


石川

0,6

 

0,6

福井

    


大槌町

 

 0,16

0,16

静岡

山田、大槌町

7,7

山田

 

 0,89

0,89


 

 

大槌町

 

 1,46

1,46

三重

     


久慈市 

0,27

 

0,27

大阪府

宮古

18,0

宮古

3,6

 

3,6

小計

 

70,9

 

 

 

15,2

その他

 

 

 

 

 

 

神奈川

 

12,1


 

 

 

山形

 釜石

150


 

 

 

北海道

   ―



 

 

 

千葉市

   ―



 

 

 

総計

 

98,0

 

 

 

15,2

 

 

 

*県北(洋野町、久慈市、野田村、普代村)

1)    工程表で示した広域化量は、2ヶ月前の1/

わずか2ヶ月の間に、環境省自身が、見積もった必要量が少なく見ても1/に減っている。これは由々しき問題である。官公庁・民間、公共事業体を問わず、計画表で示した処理量が、半減どころか当初計画の1~2割になったとなれば、その根本的な理由を問わず計画を進めることはありえない。/6減ったのではなく、5/6減って1/6になったのである。

環境省は、国の省庁であり、環境省が示した方針は、地方自治体に大きな影響を与える。なかんづく広域化量は、示された自治体は、賛成するにせよ反対するにせよ示された数値を下に、計画を立てる。相当の根拠があるものとして備える。ほんの2か月前の5月21日に、環境省は岩手県には、広域化必要量がまだ120万トンあると発表していたのである。(その時ですら、振り分けた自治体の合計は、98万トンでしかなく、サバを読んでいた。)

今年5月21日、環境省は、昨年発表していたがれきの発生量について大幅な見直し発表を行った。それに伴い宮城県では、当初発表の1/4量にあたる約400万トンを下方修正した。それだけでも大問題である。過大に見積もったがれきの総量に基づき、3年以内に処理しなければならないと仮設焼却炉や破砕選別施設などの規模を考え、数百億円の処理施設を建設していた。過剰な設備投資で喜ぶのは、プラントメーカや工事メーカでしかなく、損失額を出した責任は、誰取るのか?

民間企業ならば、見積もりを誤り、過大な設備投資を行った責任を取って担当重役の責任が問われるような事態である。実際がれきの処理に独自に取り組んでいた仙台市は、当初から予測量を135万トンとし、その後も見直し無く、135万トンで進めて来ていた。推計が不可能な技術ではない。

ところが、その見直し時に発表した「推進計画について」の予測量が、さらに出鱈目であり、今回の「工程表」では、処理量が1/6に減っていたのである。

見積もりの失敗を一度ならず繰り返す。通常の計画では有り得ないことである。

しかも大事なことだが、「工程表」では、表1に示したような「推進計画について」で示した処理量と今回「工程表」で示した処理量が、対比して示されていない。そればかりか大幅に減ったことについても触れていないのである。(2ヶ月前に発表された広域処理の推進について」を筆者が、比較して初めて分かったことである。)

逆に「推進計画についてでは」単位を万トンにし、「工程表」では、単位をトンにしているため、表記している数字からは「減った」ことが直感的に判断できないようにしている。(無意識で行っているとしたらそうした行為が習いになっているのか?)

岩手県でも広域処理によって処理するがれきの量が減っているのに、あえてまだがれきの処理が必要だと見せかけた「工程表」と言うことができる。

 

2)     工程表問題のまとめ

環境省のがれきの推計量の間違いに続き、今年5月21日に発表した「推進計画について」で示した広域化必要量についても、今回の工程表によって、6倍も過大に示されていたこのが分かった。したがってこれらの事実から言っても現状で示されている工程表の広域化必要量をそのまま前提にして、受け入れ自治体側で議論を進めることは、間違いと言える。まず事実がどこにあるかを調査する必要がある。

環境省が、工程表で示している代表的な自治体での広域化推量が「広域処理の推進について」で示した数値とのように変わったのかを対比的に示す。

木くずや可燃物については、

全体で15万2千トン←98万トン

山田町関係

静岡県0.89万トン←7.7(大槌町含む)

富山県1.08万トン←5,0万トン

野田村・県北関連

秋田県1.88万トン←13.5万トン

埼玉県1.13万トン←5.0万トン

宮古市や宮古地区関連

群馬県2.78万トン←8.3万トン

大阪府(市)3.6万トン←18万トン

このように、代表的な自治体についても、大きく違ってきている。

また異なってきているのは、数量だけでなく、処理委託する中身も異なってきている。例えば富山県では、木くずを5万トンと言うことだったが、今回の工程表では、「可燃物」1.08万トンに代わっている。

そして工程表は、工程表の本文と、工程表(概要版)(注7)が環境省のHPに掲載されているが、工程表では、受け入れ自治体先の合計量を計算すると、15.2万トンとなっているのに、工程表(概要版)では、可燃物と木くずを合わせて29万トンと約2倍に表記している。

2か月前の環境省発表の文書と工程表が大きく異なっているだけでなく、工程表の中ですら、数値報告が異なっている。

以上工程表の問題点をまとめると

  「広域処理の推進について」及び「工程表」で示した数値に6倍の開きがあり、発表されているデータに一貫性がなく信頼できない。

  「工程表」では、広域化必要量は、本文記載の自治体ごとの合計が、15,2万トンであるのに、「工程表(概要)」では29万トンと記載されていた。(注7)同じ発表報告の中ですら、数値が異なるというのは、このまま発表内容使用することができない。

  「工程表」の中には、環境省のこれまでの発表内容と数値が大きく違った事実や数値が変わった理由が記載されていない。

 

3.岩手県の広域化は、必要か推論する。

宮城県は、民間に業務委託し、委託処理したがれき処理量を半減以下に契約変更するところまできた。明らかに広域化は必要ない。

一方今回調査すると岩手県も宮城県同様広域化が必要ないところに来ていることがわかった。

現在環境省が発表している広域化が必要ながれき量は、工程表で示され、それは表1に示されているが、そこで示されているがれき量は、本当に広域化が必要であるかの検証を行いたい。すでに前項で見たようにこの工程表の15.2万トンも信頼できる数値ではないからである。

 

1)     基本データ

表1を見ても分かるように環境省の肝いりで全国広域化しようとしているのは、木屑や可燃物である。そもそも岩手県のそれらはどれだけ発生していたのか?

岩手県の「岩手県災害廃棄物処理詳細計画(平成24年改訂版)」(以下岩手詳細計画・改訂版)(P21)(注9)によれば、5月21日の見直し後の数値が示され、柱材・角材などの木屑材や可燃物については、岩手県でも1年前の「岩手県災害廃棄物処理詳細計画(平成23年8月30日)」(注10)に示されたデータに対して下記のように35%~42%も大幅に減っていたことが記載されている。

()内は、1年前に示していた見直し前のデータ。

柱材・角材の量は、30万6400トン(←52万3800トン)

可燃系混合物の量は、66万200トン(←103万4100トン)

それでも全体量が以下のように約90万トン増えたのは

全体量   525万トン (←435万トン)

不燃系混合物の量245万2300トン (←113万2400トン)

コンクリートがら144万8600トン (←90万3600トン)

金属くず24万5000トン (←67万2200トン)

津波堆積物などの不燃系混合物やコンクリートがらが増えたためだと報告されている。

5月21日のがれきの見直し量が環境省から正式に発表される前に、がれきの発生量が、宮城県については、1/4下方修正されるという報道が流れ、広域化が終わりかと思っていたところ、間髪を措かず、岩手県が増えたというニュースがNHKで流された。

宮城県の下方修正分は、津波によって海に流されたためとの説明があったが、では岩手県のがれきが増えたのは、宮城県から流されたものが岩手県に流れ着いたのかと皮肉っていたが、今回のデータでは、岩手県も木屑になる柱材・角材、そして可燃系混合物については、35~42%も減っていた。

この柱材・角材の量から木屑約30万トン、可燃系混合物66万トンの数値が基本データであり、これらの処理が、岩手県で現在どのように行われる計画になっていて、その中で広域化処理がどれだけ必要と算定しているかが問題となる。

 

2)     岩手県での木屑や可燃物の処理計画

今回全国広域化の方針を掲げた被災2県を見ると、宮城県と岩手県では、処理方針が違っていた。両県とも被災市町村が処理したうえで、処理できない分を県に委託する点は同じだが、その後の処理方法は全く違っていた。

宮城県は、県内を4つのブロック(石巻、気仙沼、亘理・名取、宮城東部、)に分け、各ブロックごとに技術提案型の入札制度であるプロポーザル審査を行い、建設ゼネコンや複数の建設ゼネコンからなるJV(建設事業共同事業体)」に業務委託している。大きなブロックに分けることによって、必然的に大手の建設ゼネコンしか審査に応じることができず、石巻ブロック(石巻市、女川町、東松島市)の業務を委託した鹿島JVの場合、鹿島建設、清水建設、西松建設など6社の東北支社が係わり、地元に本社を置く企業は3社と言う状態だった。石巻ブロックのがれきは685万トン、その委託費は1923億6千万円と言う巨大規模だった。

廃棄物の処理になぜ建設ゼネコンかと言う問いには、今後の復興事業に繫げる意味があると説明されたという。他のブロックも建設ゼネコンが入り、例えば気仙沼ブロックは、石巻ブロックの審査で敗れた大成建設を中心とする大成JVが、業務委託を受けている。

宮城県は建設ゼネコンが入り、巨大な規模で処理を行い、業務委託費が数百億円から2000億円と巨額のお金が動き、一部の例外を除き、ほぼゼネコンに丸投げしていた。そしてその事実を隠し、がれきの処理が遅れていると全国の自治体にがれきの広域化処理を呼び掛けていた。

これに対して岩手県は、木くずなどはボード会社やペレット会社などの再生利用に回しながら(100t/日)、その他の木くずや可燃物などの廃棄物の焼却等の中間処理は、以下のような3つの方向で行っている。

  県内市町村の清掃工場の焼却炉で、余力があるところを使う。(合計225t/日)

  仮設焼却炉をつくったり、地元の釜石にある新日鉄の休炉していた溶融炉などを使い焼却(合計195t/日)

  太平洋セメントや三菱マテリアルなどのセメント会社のプラントで、セメント作成時の燃料として使う。(770t/日)

岩手県の場合は、県内の既存施設の活用を第1に置き、がれきの処理の計画を作ったことが伺うことができた。岩手県も4つのブロック(久慈、宮古、釜石、大船渡)に分けて処理しているが、中間処理の行方を決めているため、廃棄物業者との間で、結んだ契約は、被災市町村の1次仮置き場から2次仮置き場に運び、破砕選別した後、上記の①~③の中間処理先に運ぶという運搬・処理事業契約である。契約金額は、数十億円単位で、石巻ブロックの事例と比較すると、2ケタ金額が少なくなっている。

契約の期間も、1年単位の契約で、宮城県の場合、3年目の2014年3月31日までの契約を、当初のがれきの推定量によって結んだのとは、大違いである。確かにがれきの発生量の推計自体、難しさのある中で、1年単位の契約を結べば、1年間の処理実績を見ながら2年目以降の契約を結べば良い訳で、合理的である。

いずれにせよ、岩手県は、木屑などの再生利用を図りながら、汚れた木屑や可燃物については、上記に示した①~③の方法で中間処理する計画を立てていた。

 

3) 広域化は必要ない!?

ではこのように計画を進めている中で、基本データで見た木屑や可燃物の処理は、どのように進めてゆくことができるのだろうか?

<木屑の行方は?>

木屑は安全で質の良いものならば、ボードやチップ材に使用され、有価物としての市場もある。

実際視察や岩手県への問い合わせや取材の報告として伝わってくる情報は、木屑がないという情報が多い。表1で見ても、富山県に当初持ってくるといっていた山田町の木屑5万トンは、工程表の計画からも外れ、富山県には、可燃物が、1.08万トン持ってくるという予定に変わっている。山田町への富山県議らによる視察団の報告として、木屑がほとんどなかったことが報告されている。

静岡県の島田市に今年5月、本格焼却用としてもって来た4個のコンテナに詰め込んだ10トンの内、1つのコンテナからは75kgのコンクリートの塊や石ころが出たという洒落にならない話しがある。これも木屑がほとんどないという状況を加味して考えると木屑がなかったからコンクリートの塊を入れた?といった別な見方ができる。

木屑が有価物として取引されていれば、現地の状況の中で「持ち去り」はないのか?新聞紙の分別回収で回収ステーションに置いた新聞紙が「持ち去り」業者によって盗まれてゆく事例が全国の多くの自治体で多発していることを考えたとき、木屑が有価物として流通しているのか?有価物として定着していればなくなるのは当たり前となる。

木屑の材料となる柱材・角材が、30万トンあったとしても、それは、現状どのように処理され、また処理されつつあるか検証が必要だ。実際環境省の今回の「工程表」で示されている広域化が必要な木屑量は、現状で合計4万500トンであり、岩手県内で25万トンは処理する方針に変わっている。

ではそれがなぜ30万トンにならないのか?もし手を上げた自治体への「お礼」のために全国の自治体に配るというのなら、違法行為だと知っておいてほしい。

<可燃物の行方は?>

また可燃物については、可燃物以外のものも混合された物、「可燃系の混合物」が66万トンである。この中に実際の可燃物がどれだけ含まれているのかは、「岩手詳細計画・改訂版」(P49)の岩手県の可燃物処理フローでも可燃物の合計は、54万4500トンとなっている。この可燃物は、一部木屑を含め、先に見た岩手県の①既設の清掃工場の焼却炉、②仮設焼却炉③セメント工場で焼却することになるが、これらの処理能力は、同資料のP31に記載がある。

まとめてみると

  225トン/

  195トン/

  770トン/

と合計で1190トン/日なっている。年間330日稼動で計算すると、年間約40万トン処理でき、2年間で80万トン処理できる計算になる。

汚れた木屑は、多少焼却することになっても十分処理できる量となる。

以上現在公表されている基本データや岩手県内での処理能力から言えば、環境省が進める全国の市町村の清掃工場を使った広域化提案は、必要ないと推論することができる。また被災県内での今後の処理として、森の防潮堤などの埋め込み資材として使ったほうがよりよい活用方法になる。

4.がれきの広域化は必要ない。

宮城県、岩手県とも被災県としてがれきの処理計画を、違った形だが進めてきていた。宮城県の場合、建設ゼネコンにがれきの処理をほぼ丸投げ的に業務委託し、業務委託した事実を隠し広域化を進めようとしていた。しかも今回委託契約の変更で、委託量の半減と委託料の減額を行いながら、それを無視するように北九州への新たな業務委託を図った。こうした違法行為はまず議会でチェックしてほしいが、東京都へのがれきの引き受けも、北九州市も一刻も早くやめさせよう。

岩手県については、環境省、岩手県の公式資料に加え、情報開示請求で入手した契約書などを当たり実態をつかんだ。そして広域化が必要ないという推論を示した。活用していただきたい。

今回のような問題の常として、有害物を持ち込まれる市町村での住民の関心が高まり、様々な行政への働きかけやチェックが行われるが、ともすると被災県ではほとんど問題になっていない現状がある。

そうした中で9月10日の北九州市へのがれきの船積みを前にして、北九州市の市民と宮城県の市民がこの問題で連携を図る市民組織「おひさまプロジェクト」が結成された。宮城県の医師である東北大学の岡山博教授や市民団体と北九州市から駆けつけたひまわりプロジェクトによって、仙台市岩沼西公民館で結成の集会が行われ、福岡市の住民活動を行う原豊典氏や秋田大学の村上東教授や秋田の市民団体も応援に参加した。

また今回の宮城県や今なお「貴重ながれき」を山分けするように全国に配ろうとしている岩手県の存在があるが、この問題を整理すればするほど、これらのバックに広域化をなんとしても進めようとする環境省の存在を感じる。

次回 環境省問題を整理する。

 

 

 

 

<注釈>

注1:委託契約書(平成24年環災第3―218号)名称「災害廃棄物処理」(北九州市搬出)委託料金622,204,628円 搬出場所 「宮城県石巻市雲雀野町区内(二次仮置き場)」

注2:宮城県と県議会への通告書 2012年9月10日 北九州ひまわりプロジェクトブログ


まとめ☆1

注4:「災害廃棄物の推計量の見直し及びこれを踏まえた広域処理の推進について」1202年5月21日 環境省リサイクル対策部

注5:「東日本大震災に係わる災害廃棄物の処理計画の工程表」1202年8月7日 環境省

注6:緑の情報特版NO4 北九州市市民検討委員会ブログ、もしくは青木泰ブログ

注7:東日本大震災に係わる災害廃棄物処理の工程表(概要)環境省 H248月7日

注8:青山、池田、奈須 「がれき広域処理の正体・もともと不要!5000億円がゼネコンJVに」

注9:「岩手県災害廃棄物処理詳細計画(平成24年改訂版)」2012年5月 岩手県

注10:「岩手県災害廃棄物処理詳細計画」2011年8月30日 岩手県